とが時々あるやうだね。単に建物だとかその暗い壁だとか、そんな物に変にがつちりした存在を感じて敗北を噛みしめるばかりではない、自分が現に存在し、又寺の一隅に坐つてゐることに対して無意味を痛感し、痛感するばかりでなく、そのことがすでに又無意味に思はれる程何かがつかり[#「がつかり」に傍点]した倦怠を感じ、それと一緒に自分の存在がいつぺんに信じられなくなつてくる。それが、自分の心の中でさう思ひ当るばかりでない、自分よりももつと強烈な生命力を持つこの建物の意志の中に、妙にみぢめに比較されてさういふ倦怠の気配を感得するから、実に実にやり切れない心細さに襲はれてしまふ……」
「それはさうだらうね。君の場合には棲む場所が直接この強烈な建築だから、だからつまり建築を対象にしてさう感じてしまふのだらうけど、僕の生活には建築なんぞ大した関係を持たないから、何か漠然とした一つの全体を対象として……」
 凡太は同感してそんなことを言ひかけたが、議論の対象そのものが茫漠として所詮は一生の十字架であり、口に乗せて弄ぶのも無役であると思はれたので、さつさと口を噤んで沈黙してしまつた。それに凡太は、由来自分の虚無思想
前へ 次へ
全54ページ中41ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
坂口 安吾 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング