うですね。ボクの四五桂は錯覚でしたが、錯覚でない四五桂の場合ですね。それと娘との関係です。感じというヤツですけど、きっと何かがあるのです。ね。戻ってみましょう。何か感じることがあるかも知れません」
「対局中の異常心理のせいだよ」
「いえ、それと関係ないですよ。それでしたら、今までに同じようなことがなければならないでしょう。あのときボクは対局を忘れきっていたんです。娘の顔が対局を思い出させたのではなくて、対局中であるために娘の感じ、瞬間的なある感じを読み切ることができたんだと思いますよ。錯覚でないことはたしかです」
 甚だしく確信的であった。娘の様子を思い返してみても、野村にはそれらしいものを感じとることができないので、バカらしいような気持が多分にあったが、木戸の対局中の異常心理の感じたものの正体を突きとめさせてみるのも一興だ。枯尾花のたぐいに終るにしても、その道順をたどるだけでも一興だ。たしかに何かがあったとしたら、それがどのように小さな何かであってもさらに興あることではないか。対局中のとぎすまされた神経は、あるいは神秘を見ることができたかも知れないのである。
 山上へ戻ってみると、例
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