によって畑には人影がなく、家の戸は閉ざされたまま変りがなかったが、畑に人影がないことも、農家の戸が閉ざされたままであることも、特にフシギというわけには参らぬ。山上の農家の人が時に戸締りしてでかけることもありうるというだけのことである。
「中へはいってみたいなア」
と木戸は思いあまったような呟きをもらした。
「何か変ったものを見たのかい」
「いいえ。特に変ったこともありません。ですが、この家の内部はいわば盤面のようなものですからね。やはり盤面に向ってみないと。ボクら頭の中に自分の盤面はあるんですけど、勝負はやはり本物の盤面を睨んだ上でないとできないものです。そう云えば、土間をはいって右下隅に棚があって概ね何も乗っかっていないんですが、サイダーの空ビンだけが一隅にかたまっていて中味のつまってるのが中に二三本まじってたんです。そんなのが妙に印象にのこっているので、ジッと盤面を、つまり屋内を睨んでみると何か関聯がわかってくるかも知れないように思われるんですね。どこかしらに関聯がでているはずだと思うんです」
「しかしキミが娘の顔に四五桂を見たのはサイダーをのみ終ってから金をもたないのに気がつい
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