て借金を申しいれた時だそうじゃないか。第一感が働くのは娘をはじめて見た瞬間でなければならないように思われるんだがね」
「それもあるかも知れませんが、たとえば将棋の場合、序盤に第一感の働く余地がないようなことも思い合わせてみることができやしませんか。急所へきてはじめて第一感があるのでしょう」
 木戸は野村をほったらかして家のまわりを歩いてきたが、何の収穫もなかったらしい。ガッカリした色が見えた。あきらめて山を降りたが、道ばたに働く農夫を見ると、我慢ができなくなったらしく、
「あの茶店に二十ぐらいの娘がいますね」
「あの出戻りかい。もう二十四五だろう」
「色の黒い、畑の匂いのプン/\するような娘ですよ」
「アヽ、色が大そう黒いな。畑の匂いだって? とんでもない。色の黒いのは地色だよ。あの出戻りは野良へでたことなんてありやしない。ヨメ入り先から逃げだしたのも野良仕事がキライだからだ」
「茶店だけで暮しがたつんですか」
「バカな」
「お金持なんですか」
「あれッぽちの畑じゃア食うや食わずだな。もっとも、出戻りはミコだ」
「ミコとは?」
「神社で踊る女だよ。占いも見るな。三年さきに死んだオフクロ
前へ 次へ
全29ページ中12ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
坂口 安吾 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング