は占いをよく見たが、あの出戻りもマネゴトはしている」
「家族はいないんですか」
「父親は二人ぐらしだ。男の兄弟もいたのだが、あれッぽちの畑じゃア仕様がないから町へでて何かやってるようだ。山の上に離れていることだから、あのウチのことは村の者もよく知らないが、なんでも父親は四五日前から寝こんでいるということだった」
「大病ですか」
「知らねえ」
木戸はまた考えこんで歩きだした。橋の上までくると立ち止って、
「また戻ってみたくなりましたねえ」
「病人のことでかい?」
「それなんです。生きてる病人なら、どんどん戸を叩けば返事ぐらいするでしょう」
「ずいぶん叩いたじゃないか」
「だからですよ。あの戸締まりした家の中にたとえ重病人にしろ、生きた人間がいるのでしょうか」
「死んでると云うのかい?」
「まアね。死んでるというよりも、むしろ、殺されてやしませんか。四五桂は、それじゃないかと、いまひょッと、ね」
「キミは踏みこんでみるつもりかい? よその土地からきた赤の他人のキミが」
「二十円の借金返しに踏みこんじゃア変ですか。セーターを取り返すべく戸をこじあけて侵入せりは、たしかに名折れだなア。ハッハ
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