本日はほかでもないが、ウチへきていただきたいと思ってね。ウチの奴とお前とは、私というものに浅からぬ因縁があることだし、ウチの様子をお前には見せておきたいと思いたったのでね。よく見ておけば、お前も後日バカなことは云いふらすまい。山奥ずまいで、モテナシもできないが物を食うだけが、モテナシではあるまいし、お前のためにもなることだから、さて、仕度しなさい」
山川草木の威厳と云うか、堂々たるものであった。否も応もない。野村はさっそく仕度に及んで同行した。
あっぱれ娘教祖と云いたいところであるが、彼女は村人に人気がなかった。村の子供たちは彼女に石を投げた。
「ヨー。ベッピン、牛のクソふむなア」
とはやしたてる野良の年寄もいた。娘教祖はせせら笑って、
「虫ケラどもが!」
「田舎にも虫ケラが多いじゃないか」
「日本中、虫ケラだらけさ」
平然たるものであった。山上の茶店へ来てみると、表の茶店は戸締りが施されていて、接待のため予定の休業と見うけられた。裏のクグリから屋内へはいると、タタミ、否、ムシロをしいた部屋は一間しかない。その部屋の柱に、木戸が荒ナワでガンジガラメにいましめられている。
「いま
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