いさ」
 野村はこう云いすてて別れをつげた。娘占い師はついに無言であった。

          ★

 翌日、野村は娘占い師の訪問をうけた。部屋へ招じ入れてみると、彼女は丸太ン棒の言葉と発言とのほかに、やや適度な言葉づかいを心得ていることが判ったのである。三ツ指ついて挨拶することも知っていた。
「ずいぶん礼儀の心得がおありですね。ふだんそれを用いているのですか」
 こうひやかしても悠々と動じる色もなく、うなずいて、
「先祖代々の商売だから小さい時から仕込まれてね。三ツの時からミコの踊りも神前の礼儀も仕込まれたものさ。占いには威厳がいるし、ニワサの術も親代々。タダモノにはできないよ」
「ニワサの術とは?」
「いまの都会の者には云ってみても信用できまいよ。正しいことが田舎にはいくらか残っているものさ。いまどきの都会の人間は虫ケラにも劣っているね」
 踊る神様と似たような教儀をのべた。云われて見直すと、人相骨柄にも類似があった。たぶん最も共通しない点は、娘占い師の方が野良仕事が大のキライということかも知れない。彼女はその日、逞しい身体に振袖を着て来たのである。パーマネントもかけていた。

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