戻ったよ」
と娘教祖は帰宅の挨拶に木戸の額に平手打をくらわせて、
「さ、お前はこッちへおあがり。お前を煮て食うとは云わないよ。なーに。これは普通のことでね。毎日ではないが、よくやることさ。昨日はひどかった。お前が帰ったあとでさ。薪ザッポウくらわしてやったよ。顔にはケガはさせないがね。お前にくだらないことを喋りちらしやがったからさ。オレは見とおしさ。みんな耳にきこえてくる。顔にもちゃんと書いてあるのがお前たちには判らないだけさ。お前はそこに坐って見ていなさい」
野村を指定席に坐らせておいて、娘教祖は木戸の前に立った。
「ほら。ほら。ほら。ほらしょウ」
木戸の頸に手を当てがって人形の首のように柱にがくがく叩きつけた。
「ほらしょ。ほら。ほら」
次に左右から両頬へ平手うち。木戸は目をとじて、歯をくいしばり、時々呻きをもらすだけ。
「目をあいて、オレを見な。オレの目を見な。お前の性根はくさっているぞ。お前の魂はまだ将棋指しの泥沼からぬけていないよ。人間は自然の子だ。カボチャや大根と同じものだぞ。ちっとも偉いことない。まだ、わからないか。このガキ!」
チョイとアゴを押して、ゴツンと頭を
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