くも行方をくらますほどのずぶとさだから、平時に十日やそこいら行方をくらましてもフシギはないわけで、取越苦労をする方がバカだったかと野村は思った。
野村はこの対局には関係がなかったから出かけなかったが、木戸は自信満々の様子だったそうである。むろんこの相手もAクラスの強豪だった。
ところがこの一戦は木戸に良いところがまったくなかった。中盤すでに歴然たる敗勢で、押されに押されてずるずると押し切られた。木戸は喘ぐような悪戦苦闘のあげく、前局で散歩にでかけたと同じような時刻には脂汗でぬれたような悲愴な様で別室へ下って一時間ほど寝こんだそうだ。もっとも、こういう急場にフトンをひッかぶって寝るマネができるだけでも異常神経と云えそうだが、今回に限ってずぶとい余裕はみられなかった。疲れきったあげくだったそうである。夕食後まもなくずる/\と良いところなく押し切られ、局後の検討もせずに座を立ってしまった。コマを投じて無言のまゝスッと立って再び姿を現さなかったそうだが、それは無礼にも、無慙にも受けとることができた。ともかく小僧いまだしの感、すべてに深かったそうである。しかし翌朝は平素の様子に戻って、
「非
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