いさ」
野村はこう云いすてて別れをつげた。娘占い師はついに無言であった。
★
翌日、野村は娘占い師の訪問をうけた。部屋へ招じ入れてみると、彼女は丸太ン棒の言葉と発言とのほかに、やや適度な言葉づかいを心得ていることが判ったのである。三ツ指ついて挨拶することも知っていた。
「ずいぶん礼儀の心得がおありですね。ふだんそれを用いているのですか」
こうひやかしても悠々と動じる色もなく、うなずいて、
「先祖代々の商売だから小さい時から仕込まれてね。三ツの時からミコの踊りも神前の礼儀も仕込まれたものさ。占いには威厳がいるし、ニワサの術も親代々。タダモノにはできないよ」
「ニワサの術とは?」
「いまの都会の者には云ってみても信用できまいよ。正しいことが田舎にはいくらか残っているものさ。いまどきの都会の人間は虫ケラにも劣っているね」
踊る神様と似たような教儀をのべた。云われて見直すと、人相骨柄にも類似があった。たぶん最も共通しない点は、娘占い師の方が野良仕事が大のキライということかも知れない。彼女はその日、逞しい身体に振袖を着て来たのである。パーマネントもかけていた。
「本日はほかでもないが、ウチへきていただきたいと思ってね。ウチの奴とお前とは、私というものに浅からぬ因縁があることだし、ウチの様子をお前には見せておきたいと思いたったのでね。よく見ておけば、お前も後日バカなことは云いふらすまい。山奥ずまいで、モテナシもできないが物を食うだけが、モテナシではあるまいし、お前のためにもなることだから、さて、仕度しなさい」
山川草木の威厳と云うか、堂々たるものであった。否も応もない。野村はさっそく仕度に及んで同行した。
あっぱれ娘教祖と云いたいところであるが、彼女は村人に人気がなかった。村の子供たちは彼女に石を投げた。
「ヨー。ベッピン、牛のクソふむなア」
とはやしたてる野良の年寄もいた。娘教祖はせせら笑って、
「虫ケラどもが!」
「田舎にも虫ケラが多いじゃないか」
「日本中、虫ケラだらけさ」
平然たるものであった。山上の茶店へ来てみると、表の茶店は戸締りが施されていて、接待のため予定の休業と見うけられた。裏のクグリから屋内へはいると、タタミ、否、ムシロをしいた部屋は一間しかない。その部屋の柱に、木戸が荒ナワでガンジガラメにいましめられている。
「いま
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