後記〔『炉辺夜話集』〕
坂口安吾

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(例)[#地から2字上げ]昭和十五年十二月十二日
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「炉辺夜話集」といふこの本の題名は、この本にあつめられた五ツの物語に対して、作者がどのやうな心持をもつてゐるか、それを率直に表しもし、又、ある意味では、作者が文学そのものをどのやうなものに考へてゐるかといふことを、率直に露呈もしてゐます。
 つまり私は、この題名が示す通り、人々が、炉辺のまどゐの物語をきくと同じなつかしさで読み、そのやうな感情の中で心に残り、さうして、目に見えぬ小さな肉のひときれとなつて、これを読んだ人々の生活のなかに残つてくれれば幸福だと考へてゐます。
 元来、私は、文学とは、人の心をすこしでも豊かにすればいい、人の生活をすこしでも高める力となればいい、さう考へてゐました。昔も今も、この考へに変りはありません。
 かりにあなたが、いま、戦場にゐるとします。あなたはいま戦つてきました。まぢかに、戦友の戦死も見ました。さうして後方へ帰つてきて、久方ぶりに夜をてらす燈火の下に辿りついて
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