のものではない。
 然しすぐれた文学ならみんなそれぞれの面白さがあるべきもので、面白さも亦作品の生命の一つである。
 文学の生命は何か。悩める魂の友だといふ。それも亦休養娯楽だ、と私は思ふ。人々の休養娯楽に奉仕するだけでも立派な仕事ではないか。棋士は将棋によつて、職業野球家は野球によつて寄席芸人は落語漫才によつて人々の休養娯楽に奉仕する。まことに立派な、誇るべき仕事ぢやないか。よき棋譜により、よき野球により、よき演芸によつて人に負けない好サービスをなし人々をより多くたのしませるために心を配り技をみがき努力する。意義ある生活ではないか。
 人々が私を文学者でなく、単なる戯作者、娯楽文学作者だときめつけても、私は一向に腹をたてない。人々の休養娯楽に奉仕し、真実ある人々が私の奉仕を喜んでくれる限り、私はそれだけでも私の人生は意味があり人の役に立つてよかつたと思ふ。もとより私は、さらに悩める魂の友となることを切に欲してゐるのだけれども、その悲しい希ひが果されず、単なる娯楽奉仕者であつたにしても、それだけでも私の生存に誇りをもつて生きてゐられる。誇るべき男子一生の仕事ぢやないか。
 人々の休養娯
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