菊池寛は偉いところがあつた。彼が発案した文藝春秋といふ綜合雑誌は知識とは分らせ読ませ理解させなければムダにすぎぬものと知つた魂の所産で、各方面の相当な知識を面白く読ませ分らせる、さういふところに眼目があつたに相違ない。文藝春秋と朝日グラフは私の好きな雑誌の型だ。
知識は読ませ分らせなければムダにすぎないもので、端坐、ネヂハチマキ、机に向つて読まなければ分らない、それ以外に法がないなら仕方がないが、書き様や表はし様で寝ころんでも読めるやうに工夫のできるものなら、寝ころんで分るやうにした方がいゝ。それは知識の尊厳を傷けることにならないばかりか、知識を万人の物とする尊い工夫であり努力である。これも亦尊敬すべき戯作精神の一つであり、わが思想に自信があり万人のものとしたい一念があれば、自ら戯作者たらざるを得ないであらう。
綜合雑誌の空虚にして不健全、しかも狂的に情熱的な好学精神が、おのづから文学を歪めてきたに相違ない。即ち文学からも戯作性は拒否せられ、全然ユーズーのきかない深刻空虚な献身性が文学の支柱となり、学問同様文学も亦ねころんで読めないやうなところに尊厳ができたり、ユーモアを解さぬ
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