とり出させて、手掛りを探した。
不良少女同志の文通といふものを僕は始めて読んだが、度胆をぬかれてしまつた。いつたい女学校の四年生ぐらゐといふものは、一般にどんな文通を交してゐるものであらうか。僕の読んだ手紙といふのは一として僕の常識を嘲笑し、心胆を寒からしめぬといふ物はない。縁日に三度つゞけてあとをつけた予科の奴とつきあつてみると、せんど厭らしい奴でうんざりした。この前あなたが男前やなア言ふて羨しがつてゐやはつたから譲つてあげてもえゝけれど、中学の三年坊主と交換にしてくれないか、といふ商用に関する文書もある。今度スケート(このスケートが文書中へ頻繁に現れ、四条河原町のスケート場のことであるが、不良少女の取引所の様子であつた)で中学の四年坊主を近日紹介してあげるけれど、モーションかけてはいやよ。私の恋人をとつたから徹底的に復讐してあげるわといふ文書もあつた。全部不良少女同志の文通で、男からのものは一通もなく、たゞ看護婦と名乗る女から送られた長文の手紙が十数通あり、之だけが不良少女ではなかつた。あなたのスタイルが目にチラついて睡れないけれども幸福だとか、一緒に歩いた公園や街がそれだけでもう別の風景になつてしまつたとか、激しい愛情を訴へ、自分の病院の味気ない生活の日記風な報告が必ず数枚こくめいに溜息と共に書いてある。病人がどうした、どういふ出来事があつた、同僚がどうした、医者がどうしたといふくさ/″\の出来事である。
僕はこの手紙には一杯食はされてしまつたのである。文章も字も下手くそで女そつくりであるし、同性愛の文書だとばかり真に受けてゐたら、あとでこの人物を突止めてみると、中学五年生で、不良少年であつた。つまり病院のこくめいな描写は人をあざむく計略で、全然意味がなく、たゞ一番最後の一行、何日の何時にどこそこで会つてくれと言ふのだけが重大な要件であつたのである。医者の子供ですらなく、大工の棟梁の子供であつた。不良少年ですら斯ういふ文書を発明する程だから、暗号の外交文書などいふものは、どういふ計略があるか知れたものではないのである。
親爺夫婦に異様な執拗さで懇願され、万策つきて、当時JO撮影所の脚本部員だつた三宅君に助太刀を頼んだ。かうして手紙を手掛りに、京都一円にわたつて不良少女少年の戸別訪問を始めたのだつた。至る所で、僕達の惨敗である。みんな十七八の小娘だけれども
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