スパイを辞さぬツル子であったが、あいにくのことに翼の生えたイタズラッ子が胸に弓の矢を射こんでしまったから仕方がない。挙止まことに不自由をきわめてサルトルが目覚めた気配にサッと緊張する。スパイともなれば、こゝでニッコリ笑みをうかべて、おめざめですか、と紅唇をひらくところであるが、全身コチコチに石と化して呼吸困難、言葉の通路はとッくに立ちふさがれている。
視線を動かすこともできない。正面を睨みつけて息をのんでいるから、サルトルは恐縮した。なにか御無礼をはたらいて、可憐な麗人を怒らせてしまったらしいナ、と冷汗をかいた。
「ヤ。どうも、これは相すみません」
とび起きて、タタミに両手をついて、平あやまりにあやまる。これだから、酔っ払いは都合がわるい。何をしたか覚えがないから、ヤミクモにあやまる一手。
「昨夜は意外のオモテナシにあずかり、例になくメイテイいたしまして、まことに不覚のいたり。はからずも粗相をはたらきましてザンキにたえません。ひらにゴカンベンねがいます」
額をタタミにすりつけて、平伏する。米つきバッタと思えば先様もカンベンしてくれるだろうという料簡である。
サルトルがここをセン
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