えない。
 しかし団子山苦心のカクテル功を奏して、さすがのサルトルも酩酊し、目をシバタタイているうちに、ゴロリと酒席にひっくりかえって寝てしまった。一同シッと目と目に合図、足音をころしてひきあげる。ひとり残されたツル子、ああ何たる立派な殿方であろうと熱い思いが胸に宿ってしまったが、天草商事の智将連、そんなことゝは露知りません。

   その十一 敵か味方かゴチャ/\のこと

 あけがたブルブルッと寒気にふるえて、ふと目をさましたサルトル、じかにタタミへ寝ているので、全身石のように冷く、しびれている。しかし胸にはやわらかな羽根ブトンがかかっているから、
「ハテナ」
 おどろいて身を起すと、落花狼藉、酸鼻の極、目も当てられない光景である。接待係がにわか仕立ての婦人社員であるから、後をも見ずに引きあげてしまう。食べちらした皿小鉢、林立する徳利、枕を並べて討死しているビールビン、酒もこぼれているし、魚がタタミの上に溺死している。
 万物死滅して泣く虫すらもない戦いの跡、ところが斜陽をうけてスックと化石している娘の姿があるから、サルトルがおどろいた。言わずと知れた近藤ツル子。
 ビジネスとあれば
前へ 次へ
全158ページ中94ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
坂口 安吾 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング