に口説くことを忘れたことがない。
ひとたび近藤ツル子の名がでると、半平と才蔵はにわかに不倶戴天の恨みを結ぶ間柄であった。半平がスパイの名に近藤ツル子をあげたから、驚いたのは一同、わけても才蔵である。半平の腹がよめない。奴め何事をたくらんでいるか。まさかツル子と言い交したわけではないだろう。だが待てよ。しばし箱根くんだりに島流しになっているうちに、などと黒雲のように疑念がわきたつ始末。
しかし半平はニヤリ/\と涼しい顔。
「元来スパイというものは、美しいこと、顔のよいことが条件だからね。もっともツルちゃんは楚々たる美少女だから、肉感的なマタ・ハリ的エロチシズムには欠けるけれども、優秀なる頭脳と高邁な気品でおぎなうから効果は百パーセントだね。ボクがムネを含めてスパイの心得を与えるから間違いはないよ。彼女はあれで旺盛な冒険心があるから、飛燕の如く巧妙に身をかわしながら要処々々をつかんでくれるね」
と目尻をさげて悦に入っている。
「一夜に探れなかったら、どうなるんだ」
「場合によっては、三日でも一週間でも、サルトル氏とともに箱根へやってもいいと思うよ」
「フン、そうかい。サルトル氏の毒牙
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