は痩せっぽちの肩をいからせて、うれしそうに笑った。
「今夜、社の寮で、サルトル氏の歓迎会をひらくんだよ。酔わせておいて泊らせて、よりぬきの美女を介抱役につけるんだよ。惚れたと見せて安心させて、秘密をさぐるんだね」
「酔わなかったら、こまるじゃないか」
「催眠薬かなんかブッこんで痺れさしちゃえばワケないよ」
「誰をスパイにつけるんだい」
「近藤ツル子」
 半平は腕をくみ、グイと胸をそらして、ニコヤカに叫んだ。アッと声はださないけれども、一同の顔付が改まったが、わけても雲隠才蔵が目玉を光らせた。
 近藤ツル子、マニ教の巻では正宗ツル子、半平の妹役をつとめた娘。
 この社きっての楚々たる美女で、心は気高く、頭もよい。社員ひとしく心をうごかしているうちに、わけても半平と才蔵が御執心なのである。
 戦後派の面々は思い患うような手間のかかったことはしない。友達の思惑に気兼ねをするようなヒネクレたところも持合わせがない。
 手ッとり早く談じこんで、結婚しましょうよとか、旅行しましょうよと持ちかけたが、二人ながら落第。しかし二度三度の落第で屈するようでは戦後派の名折れなのである。不撓不屈、ヒマあるごと
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