かないうちに、入社したものと決めたらしく、名刺を一枚わたした。高級美談雑誌「寝室」編輯長、白河半平《しらかわはんぺい》、と刷ってある。
「ボク、白河半平、かいてあるでしょう。ボクのオヤジ、面倒くさくなっちゃったんだね、子供の名前を考えるのがね。その気持は、わかるね。お酒に酔っ払った勢いで、シャレのめしたんですよ。知らぬ顔の半兵衛とね。だから、覚え易いでしょう。ほらね、知らぬ顔の半兵衛の白河半平、アッハッハ」
ひとりで、喜んで、笑っている。薄馬鹿みたいなようであるが、どうも薄気味わるくて、うちとけられない。すると、半平は、又、ちょッと考え深そうな顔にかえって、
「あなた、雑誌の編輯できますか? できないでしょうね。いゝですよ。ボクが教えてあげますから、じき、なれますよ。プランの方はね、これは才能の問題だけど、割りつけや校正なんか、字さえ知ってりゃ、六十の人だって出来らア。さしあたって、ボクと一緒に探訪記事をとりにでかけるんですけどね。ほら、マニ教、知ってるでしょう。あそこへ信者に化けて乗りこむのです。天下の三大新聞だのって云ったって、新聞雑誌、みんな念入りに失敗してやがんのさ。場合によ
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