、社長席の青年にニヤリと笑いかけた。
「じゃア、あなた雑誌の編輯の方、やって貰いましょう。雑誌の方は、ボクが編輯長なんです。それから、こちらが社長、そちらにいるのが業務部長、ボクら、みんな、まだ、大学生なんです」
 なれなれしいものである。女性的なやわらかさであったが、彼はそれをマトモにうけとめることが出来なかった。白刃《はくじん》をつきつけられたような、わけの分らぬ恐怖がいつまでも背筋を這って止まらなかった。それでも彼はこの質問をきき忘れるわけには行かない。胴ぶるいをグッと抑えて、必死の構え。彼が大学生というものに必死の闘争意識をいだいたのは、この日をもってハジマリとする。
「失礼ですが、社長さんは、天草商事の中の天草書房の社長ですか」
 彼が胴ぶるいをグッと抑えていることなどには、青年は問題を感じぬらしく、いつも涼しく、にこやかであった。
「いゝえ、天草商事全体の社長なんですよ。天草次郎とおっしゃいます。ですけど、編輯長のボクと、業務部長の織田光秀《おだみつひで》は書房の方の専属ですよ。もともと、今もとめている会計係も、書房の方でいるんですがね」
 と、彼はもう、正宗菊松の返答もき
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