める。呼吸のそろっている三羽ガラス、調子のよい白河半平が、
「では明晩、小田原の食焔会へいらして下さい。お待ちしていますよ」
 と、いとニコヤカにサルトルを送りだす。毎月一回の食焔会など、そんなものは有りゃしないが、彼らにとって、言葉というものは無を実在せしめるところにのみ真価があるのである。
「サルトルさんて、ニコヤカなアンチャンだね。ゼンゼン喋らねえなア。あれで渉外部長かねえ。ハハア、英語で喋りまくろうてんで、日本語を控えているのだねえ」
「小田原の奇流閣《きりゅうかく》へ電話をかけておけ。この四人に、婦人社員五六人。明日一時ごろ出発だ。団子山《だんごやま》に今夜のうちに料理の支度をさせておけよ」
 と天草次郎が才蔵に命じる。
「いけねえ。オレも行くのかな」
「あたりまえだ」
「寝ションベンジジイは半平の係りだから、オレはもう知らねえや」
「ハッハッハ」
 半平は不得要領に、しかしニコヤカに笑っただけであった。

   その七 箱根に於て戦端開始のこと

 石川長範はサルトルとゴリラの熊蔵、それに二号をつれて小田原の奇流閣へやってきた。こゝは由緒ある邸宅を買って旅館営業をはじめたと
前へ 次へ
全158ページ中60ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
坂口 安吾 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング