と云わせる智恵と勇気をほしかった。ありていに云えば、マニ教を蹴とばし、神様を踏んづける力が欲しかったのである。つまり、万感胸につまって、たゞ、切なく、あせるばかりであった。
 彼はようやく立ち上って、よろめいた。オットット。半平、坊介、才蔵、ぬかりなくサッと立って、支えてやる。
「だから、言わないことじゃない。目もくらみ、耳もきこえやしないんだからね。心臓マヒでも起されちゃア、第一、失業問題だからね。ごらんの通りですから、ボクたちも一しょに、至らない者ですが、ついでに浄まらせて下さいな」
「まったくだね。お父さん、会社じゃア相当パリパリしてるんだけど、神様の前じゃア、カラだらしがないねえ。このたよりない様子じゃア、子供として、見棄てちゃ、いられないね。一しょに浄まらしていたゞきたいですねえ。いゝでしょう。たのみます」
 神様の使者はつぶさに観察して、正宗菊松のダラシなさ、いさゝか呆れもしたが、けっして狂言のたぐいではないと見た。けれども、神界は厳格なものである。彼は白衣の若者たちを目でさしまねいて、正宗菊松を支え、半平たちから距てさせた。
「たとえ俗界にいかようなツナガリがあっても、霊
前へ 次へ
全158ページ中40ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
坂口 安吾 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング