、ホント。常務が浄まる時にボクたちも浄まッとかないと、なんだ、不敬者だの、汚らわしいのと、うるさいからな」
とフツカヨイの坊介が頭髪を前へたらして、蒼ざめた顔をしかめた。
「ウチの常務は、寝小便をたれた後と、神様の前へでた時だけは、平伏悄然モーローとしているけれども、その他の時はガミガミ口うるさいッたら。ボクたちも一しょに浄まらなくッちゃア、身がもたないよ」
坊介、フツカヨイとはいえ、さすがに芸術家である。胸に秘めたライカに物を云わせたい一念、必死であった。
しかし、神様の使者は厳格であった。
「お前たちは、まだ別室で神事をうけるに至っておらぬ。お前たちが、秘書の役に立たぬにせよ、俗界と神界のことは別の儀である。それすらも、わきまえておらぬ。不敬であるぞ」
ハッタと睨んだ。
「正宗菊松、立て」
声に応じて、立ち上ろうとした。しかし、魂をぬかれたせいか、腰も、足も、フヤラフヤラと力がこもらない。彼は立とうとして、両手をつき、気があせって、ハッ、ハッと病犬のように舌をたらして息をついた。
彼は本当に神様にすがりたかったのである。寝小便も治したかったし、チンピラ大学生どもをギョッ
前へ
次へ
全158ページ中39ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
坂口 安吾 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング