神の使者に両手をつかんでひきずり出されたので、列をはなれて、部屋の中ほどに妙な方角を向いていた。
「お父さん」
ツル子がツと立って、チリ紙をだして洟をかませた。彼はそれを羞しがる余裕もなかった。ツル子に手をひかれて、自分の席へもどり、敬しく神の使者に一礼した。
廊下をふむ音が鈴の音にまじって湧き起った。ピタリと戸口でとまると、
「ミソギイ」
という女の声がきこえた。護衛の若者がハッと立ち、杉戸の左右に立って、同時にサッと戸をひらく。とたんにパッと白衣に朱の袴のミコが三名、神楽《かぐら》のリズムに合わせるような足どりで、踊りこんだ。先頭の一人は御幣をかついでいる。あとの二人は鈴を頭上に打ちふっている。踊る足どりで正宗菊松の前に立ったと思うと、サッと御幣を打ちふった。なぐりつけるような激しさだ。すると左右に立ったミコが、鈴を頭上にリンリンとふる。ヒュッと廻して、又、ひとなぐり。サッと身をひいたと思うと、ツツと急ぎ足、御幣のミコを先頭に、鈴音の余韻のみを残して、今きた戸口へ踊りこみ、忽ち姿が消えてしまった。杉の戸が、左右から、しめられる。
「正宗は何歳になるか」
神の使者は、しばらく
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