リーとは、このことだろう。ビジネスに徹した哲人の構えがあるから、ほかのことにはアクセクしない様子である。だからパンパンが、自分のビジネスとなれば、チョイト、遊バナイ、抱きついたり、タックルしたり、そういうことも出来るのだろう。ビジネス以外のことにはアクセク気を廻さないようであった。
白河半平も手をかして、セッセと荷造りに余念がない。三人ながら仕事に精をうちこんでいる。正宗菊松は戦争中は号令をかけ、生徒に仕事を督励したものだが、奴らは尻をたたかれても滑りだしよく動こうとはしなかったものだ。まるで別の人間が生れてきたのだろうか。
そこへ三十二三の芸術家めいた人物が、蒼ざめた顔に毛髪をたらして、やってきた。
「フツカヨイでね」
吐く息が苦しそうだ。フツカヨイで、目がすわっている。半平は男と握手をして、
「こちら正宗クン。こちらがカメラマンの間宮坊介《まみやぼうすけ》クン。ライカを胸に忍ばせて、これが大事の役なんだ。だけど、旅行中は、正宗クンの秘書ですから、わかったね」
半平は年長の坊介の背中をさするように叩いた。親父が子供をあやすようにアベコベであるが、板についている。フツカヨイの坊
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