宗クン、見てらッしゃい。これがマニ教へ献納する品々で、いゝかい、天草物産バターと書いてあるけど、中味は大島バターをつめかえたのさ。ウチのバターはマーガリンだからね。醤油も中味はキッコーマン。ウチのはサナギをつぶしたゲテモノだからね」
と、一々説明した。天草物産ハム、天草物産製菓部カステラ、天草物産ツクダニ等々とある。このほかに箱根から清酒一樽と米一俵を取り揃える手筈もできている由であった。
近藤ツル子、イヤ、正宗ツル子二十一歳は器用な手附で、味の素を天草物産の袋につめかえて、それでツメカエの仕事が万事終了すると、アーすんだ、と背延びをしてから、正宗菊松をジッと見て、
「私、ツル子よ。どうぞ、よろしく」
平山ノブ子はセッセと荷仕度にかゝっていて、紹介をうけても、ちょッと上眼をあげたゞけ、挨拶ぬきに多忙である。我々日本人は戦争このかた汽車の切符売場などで女の売子にケンツクをくわされるのは馴れているが、紹介されてもジロリと上眼をあげただけとは、人格を傷けること甚しい。
けれども正宗菊松は、立腹を忘れて妙技に酔った。ツル子やノブ子の働きざまのカイガイシサに酔ったのである。ビジネス・オン
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