へ行きつくことはできません。後日に至ってアタシが皆さんを案内したということは必ず知れるに相違ない」
サルトルは難解の謎々を出題したように楽しがって一同の顔を見廻した。
「いえ、タネも仕掛も至ってカンタンでざんす。材木を買うにつき再調査に見えたとふれこめばよろしい。あの現場ではアタシが社長代理で見廻る例でざんすから、お客さんを案内するのもアタシの役目のうちでござんす。皆さんはトラックをのりつける。アヘンのカンをトラックにつんで、その上に材木を乗っけて戻れば東海道はOKですな」
「いくらなの」
光秀の声はつめたい。
「二千万」
「お前さん、正気かい。二千万の現金といえばダットサン一山だぜ。こっちから持ってくぐらいのことはオレたちワケなくやってみせるが、お前さんがそれを一人で受け取って処分がつくかい」
「それは、もう、実に、いとも、カンタンに」
と、サルトルは我が意を得たりとうれしがってモミ手をした。
「御配慮かたじけないところですが、御心配無用。ぜひとも早くそれを持たせてみてごらん下さい。ものの小一時間とたたないうちに、ちゃアんと姿が消えてしまいます。すなわち、これを他のカンにつめて地中の一点に埋めてもよろしい。秘中の秘。アッハッハア」
サルトルの哄笑は満堂を圧するものがあった。光秀も半平もさすがに声をのんでいる。すると天草次郎が小さな身体をグイとねじって、カミソリのような声をあびせた。
「箱根くんだりへ一山の金をつんで御足労な。アヘンがあるなら、持ってこい。買ってやるから。一山でも、一包みでも、持ってきたら、買ってやらア。才蔵め、ドジな取引に首を突っこみやがる。もう一っぺん、箱根へ戻れ」
「まアさ。そう云うもんじゃないですよ。じゃア、ちょッと、サルトルさん。あなた別室で待ってらッしゃい。社長は短気だからね。気持をなだめて、あなたの顔も立つように話してあげるからね」
と、半平がとりなして、サルトルを別室へひきとらせた。
その十 美女のスパイが恋の虜となること
「ともかく雲さんの話をきこうじゃありませんか。アハハ。雲さんときやがら。箱根の雲さん」
「やい。よせやい」
「怒るなよ。酒手をだすから。ともかく、雲さんの話をきいて、考えてみましょうよ。敵の話がホントなら耳よりの取引だからね。雲さんは彼氏が信用できるかい」
「そんなこと知らねえや。ホントなら耳よ
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