たはギャングじゃないけれど、お金と物品とひきかえる手段において、同一の手口以外の方法がないワケでしょう」
「なるほど」
「いわばボクたちはサルトルさんの強迫状をうけとって、アハハ、いわばですよ。悪くとらないで下さいね。指定の日時に指定の場所へお金を持ってくワケでしょう」
「これは恐れいりましたな。では、こう致しましょう。指定の日時は天草商事さんに一任いたしやすから、お好きの時日に突如としてお越しになっては。アタシの方はアタシひとりの都合ですから、いつでも都合がつけられます。これならば御満足と存じますが」
「ハハア。なるほど。ボクの方から突如として押しかけるか」
「さよう。何百人でいらしてもよろしい。アタシは常に一人でざんす。一人でなくてはアタシの方は不都合ですからな。アタシは天草商事さんを信用致すワケではございませんが、運命を信じております。アヘンのカンとひきかえにアタシのナキガラが穴ボコへ埋められても仕方がない。かくなる上は運命でござんす。アタシひとりの生涯に春はとざされているか、風雲録は一か八かでござんすな。アタシは誰もうらみません。また必要以上の要心もいたしません」
「えらい!」
 半平はパチパチ拍手を送った。
「実にえらいね。サルトルさんは。大丈夫はそれでなくてはいけませんねえ。ボクにはとても出来ないね。人を見たら泥棒と思うからね」
 こう半平にひやかされてもサルトルは感じがない。あべこべに満足してニコヤカにうちうなずき、得々とモミ手をしている。
「なんでしたら、アタシの身辺に雲さんでも、ほかの方でもかまいませんが、目附の方をつけておけば御安心ですな。お好きの時日に急襲あそばす。アタシの素振りにヘンテコなところがあれば、ハハア奴め何か企んでるな、とわかる」
「益々えらい! アッパレなスポーツマンシップだなア。握手しましょう」
 半平にさそわれてサルトルはいそいそと握手に応じる。
「交換の場所はどこさ」
 光秀がきいた。
「現場ですな」
 ニッコリうなずいてサルトルは答えた。
「うちあけて申せば、天草商事さんに買っていたゞきたいという山林の中の一地点です。これだけは教えてあげても大丈夫。ザッと六七百万坪のうちの半坪の地点にありますな。そこで問題は人目をさける方法ですが、アタシ個人の取引ですから、石川組の目をだます必要があります。しかし、石川組にさとられずに現場
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