ローカーの暗躍がものすごかったというが、要するに商品は実在しないのである。然し、私は実在すると思った、あの男からきいたから。その男は又、私は別のあの人からきいた、私も実在すると思っていた、みんな、こう答える。実在すると思いこんでいたとなればサギではないと言い張る方便があるから、人からきいた、そして信じた、みんなカンタンに信じた信じたと言う。
 だからブローカーは現物など問題じゃない、情報を信じることが大切で、情報がうまく出来ていれば金になる、この連中は法律の知識もあり、罪にならない条件をなんとか用意する策戦はぬかりなく心得ている。
 昔からありふれたのに手金サギというのがあったが、近ごろのは全額前払い、そう変ったゞけなのだろう。
 昔は物が有り余っていたから、商人は売りこむのに苦心サンタン、たいがい勘定はアト払いで、手金などタカの知れたものだから、こんなサギはお歴々はおやりにならない。ちかごろは前代議士とか、取締役社長、そういう然るべきトノサマがやる。
 トノサマとは何ぞや。だから私が前章に於てルル申し述べてある通り、目下は中世で、マーケット座、隣組座、野武士、群盗の世界であって、もう
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