トノサマはおらぬ。残念ながら人間もおらぬ。組合員はおるけれども、人間はおらぬ。中世に逆転したが、古代には逆転しなかったからである。
 マーケット座の社長が代議士に当選すれば言うまでもなく代議士ではないか。
 マーケット座の社長は落選したが、これに類する社長が代議士に当選したのは今までに例の多いことであり、選挙というものはバカバカしいものだ。
 然し代議士に限らない。万事センデン、粗悪品でも一応はセンデンでうれる。商業もそうであり、売薬、映画、化粧品、小説も御同様、みんな一応代議士と変りはない。
 然し、いくらセンデンしても、本当に粗悪な商品は結局うれなくなる。蚊の落ちない蚊トリセンコウ、火のつかないマッチ、こんなものは人は買わない。配給だから泣寝入り、目下中世であるから、政府も地頭と変りはなく、申すまでもなく野武士の一味で、火のつかないマッチを買わせる腕力があるのである。
 隣組座のオバサンたちには石ケンやマッチの粗悪品はすぐ分るけれども、代議士の粗悪品は分らない。婦人代議士がとたんに三十何人もできあがる。各人一票の公平なる選挙、あんなヨタモノが代議士になるとは、あゝ、なんたることか、
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