見に賛成であつた。そして私は二人の目覚ましい勤労の人々を悦ばしげに眺め、仕事の終るまで壁に凭れて煙草をふかしてゐた。
老婦人は私の訪れによつて幾分勇気を挽回したらしい。時々かなりの声を張りあげて、
「近頃の若い男つて、どうして斯うも甘ちやんでだらしがないんだらうね! 女の言ひなり放題にペコ/\してゐるよ。女に振られるのも無理はないやね。はがゆくつて、みつともなくつて、見ちやゐられねえや、唐変木め!」
なぞと呟いた。かなり颯爽として威勢のよい眺めであつた。けれどもそれから四五分もすると、同じ方角にシクン/\と音がするので眺めると、こんど彼女は泣きぢやくりながら、息をつめて行李へガラクタを押しこんでゐた。私は変化ある眺めのために全く退屈しなかつたのだ。
訣別の日がきた。
太郎さんと私はお花さん親子を東京駅へ送つて行つた。昼の列車だつたのだ。私自身が入場券を購《もと》めたのだから、私は無論プラットフォームまで二人を見送るつもりだつたに相違ない。ところが地下道を通り愈々プラットフォームへ出る階段の下までくると、私は実に私自身にも全く思ひがけない、途方もないことを言つてしまつた。
「ああ
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