な特攻命令が下りない。そのうち出撃もめつたに無くなり、八月をむかへてから、にわかに二編隊十人、その中に安川がはいつた。五人の中で安川が先陣といふことになつたのである。
この十人の特攻隊には安川たち三人組、死なばモロトモといふ仲良しの妙信と京二郎も含まれてゐた。
京二郎は他の隊員から変物と見られてゐたが、それは彼が無口で唄もうたはず酔つた素振りも見せない、さういふせゐではなくて、彼が女を知らないといふせゐらしかつた。
まつたく京二郎は女を知らなかつた。妙信や安川が夜陰に兵舎をとびだして女を買ひに行つたり、町の情婦を誘ひに行つたりするとき、否、この基地へくる前から、京二郎は女の遊びにつきあつたことがない。
然し、本来は至つてツキアヒの良い奴で、ほかのことには誘はれてイヤだと言つたことがなく、欲しくもない酒、見たくもない映画、なんでもつきあふ。女のことだけが別で、妙信が自分の情婦の友達などを執り持つてやつても、発展したためしがなかつた。
センチな純情派、偏屈な童貞型、特攻隊の中でも童貞型がまゝあるが、京二郎はセンチでも偏屈でもなかつた。人のことには寛大で、心に柔軟性があり、狭い純情
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