相手が処女、清純楚々たるタヲヤメであるとやゝこしくなる。ヌケガケの功名といふ奴があるからで、そこで五人が相談して、トキ子さんは我々のアコガレなんだから、胸にだいておくだけで汚さぬことにしよう。女のからだが欲しければ商売女があるのだから、と約束したが、そのとき最も年長二十六になる村山中尉が口をだして、然しアコガレを胸に死ぬといへばキレイだけれども、四人死ぬ、最後に残つた一人がどういふことも出来るわけで、さうなつては先に死ぬ者の気持が無慙だ。だから特攻に出発ときまつた者だけその出発までトキ子さんをわが物とする定めにしよう。かう言ひだしたのは彼は中尉で編隊長であり、ほかの者、安川などはまだ一人前とは云へないやうな飛行機のりだから、自分がまッさきに貧乏クヂをひきさうだからで、なるほど然し言はれてみれば先に死ぬ者の気持の暗さは無慙であるから、よろしい、その定めに約束した。これは五人だけの約束で、トキ子も未亡人もあづかり知らぬところであるから、独裁横暴、いかにも勝手だが、眼前に見る祖国の壊滅、わが身の自爆、それを思へば彼らの心中も同情の涙を禁じがたい。
 ところが皮肉なことに、この五人には、いつか
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