であつたが、この基地へきて、たまたま星野といふ未亡人と知りあつた。星野家はこのあたりでは名の知れた古い家柄のお金持で、未亡人に一男一女あつたが、長男は出征して北支で死に、まだ二十五の秋子といふお嫁さんが後家となつて残され、あいにくのことに遺児がない。妹の方は十九でトキ子といつた。
 星野夫人は自分の倅《せがれ》が戦死のせゐもあつて、兵隊が好きで、特別特攻隊の若者たちに同情を寄せてゐた。
 そこで行きづりの若い兵隊を自宅へ招いて御馳走するのが趣味であつたが、誰でも招待するのかといふと、さうではなくて、一目見て気に入らなければそれまで、気に入ると、街頭でも店頭でもその場で誘つて自宅へ案内する。さういふわけで星野家へ出入りするやうになつた兵隊が安川もいれて五人ゐた。
 五人の兵隊がみんなトキ子が好きなのだ。元々特攻といふものは必ず死ぬ定めなのだから、夫婦になる、さういふ未来のあるべきものぢやない。だから基地では一人の女を五人六人で情婦にする。さういふ場合はまゝあつたが、未来にどうといふ当《あて》のない身は磊落で鞘当ても起らない。
 ハッキリ情婦となつてしまへば却つて鞘当てはないのだけれども、
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