シをかついで騒ぎまはるやうなことが大好きだから、戦争は度が過ぎると思つたが、坊主はどうも虫が好かぬ。そんな性質だから、ビンタがなきや兵隊ぐらしも捨てたものぢやないなどゝ内々気楽に思つてゐるところへ、特攻隊、まだ死ぬのは早すぎる、まつたく暗い気持になつたが、ヤケ、ヤブレカブレ、飛行機のりになつた時から時々夜中に淋しさ、やるせなさで、ふいに首を突き起して思ひきり怒鳴りたいやうな気持になることがあつた。愈々来たか、ダメか、と思ふと一両日は時々いはれなく竦むやうな、全身冷えきる心持に襲はれたものであつた。
 だから特攻基地へ廻されてきて気違ひ騒ぎを見ると、ハハア、みんなやつてる、オレだけぢやないんだ、グロテスクきはまる因果物を見せつけられてそれが人ごとでない感じ、思へばわが身にせまる不安は身の毛のよだつものであつたが、それと一しよに妙にゾクゾク嬉しく勇ましくなつてきた。よろし、オレもやるぞ、さつそく夜陰に窓からぬけだす、ビンタがないから大いに豪快で、淫売宿にナジミもできたが、挺身隊の女工の情婦もでき、女事務員とも仲がよくなり、看護婦にも一人いいのができた。
 安川は医者の三男坊で絵カキ志望の男
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