々しく戻つてきた。服は破れ、血がにじみ、顔は腫れ、目だけ吊りあげて疲れきつてゐる。
「ムチャクチャですよ。安川の奴なんざ、京二郎を殴つておいて、急に方向転換して村山に武者ぶりついてゐるんですから。思へばケンカはヤボですよ。四人で話をきめてきたのです、トキ子さんに、三人の色男から一人指名していたゞくのです。三人異存はないさうですから、さつそく、たのみます」
しばらく無言であつた。トキ子はいくらかシカメッ面をして、四人を代る代る眺めてゐたが、
「怪我の浅いのは、どなたとどなた」
「さてネ。みんな同じやうなものですよ」と妙信が答へた。
「そんなら皆さんで、ウチにある皆さんの荷物を、安川さん村山さんの宿へ運んでちようだい。あんまり威張らないで下さい。もう戦争がすんだんですから。一度はクニへおかへりになるのがいゝわ。私のオムコさんは私がそのうち探しますから」
そこまで一気に言つて、
「サア、早く、早く、荷物を運びなさい。あんまり威張らないで」
四人は荷物を運んで下宿の一室でボンヤリ額をあつめてゐた。結末が意外で腑に落ちない思ひであるが、アンマリ威張らないで、と二度も言つた、その意味が誰にも
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