見当がつかないのであつた。
「分らないことはなからう。お前さん方、存分威張りかへつてゐたゞけのことさ」
妙信に言はれて三人は腑ぬけのやうに薄ボンヤリ、笑ひ合つた。
翌朝、四人の起きたころ、トキ子さん三人家族は早朝すでにどこかの温泉へ姿を消してゐた。その日の夜、四人が駅で東京行の汽車を待つてゐると、星野の女中がきて、お嬢様から皆さんへの御手紙忘れてゐました、と届けて行つた。ひらいてみると、
「おかげさまで強くなりました」
と書いてあるだけだつた。わかつたやうで、わけが分らない。
「元々、あのお嬢さんは左マキなんだよ」
と妙信が言つたが、この手紙と昨日のトキ子の言葉に最も深く思ひこんでゐるのは京二郎であつたらう。
京二郎はまつたくトキ子に負けた思ひがしてゐた。トキ子は三人を見放したではないか。それだけでタクサンだ。
すでに女は進軍してゐる。肉体だけで進軍してゐる。男の奴が感傷や屁理窟で手まどるうちに、女は時間を飛躍して行く。
女を軽蔑してハジをかいたから、こんどは女を尊敬してやらう。女の方がハジをかくぐらゐ尊敬してやらう。然し女はハジをかくだらうか、などゝクサ/″\のことを考
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