秋子とても、信子とても、さうではないか。
然し、トキ子は可愛いゝと思つた。
★
トキ子と京二郎の関係に先づ気づいたのは妙信であつた。
京二郎は妙信が同じ部屋にねてゐる夜も、トキ子への情慾を抑へることができなかつたから、血のめぐりのいゝ妙信は、相手が誰でもなくトキ子であることも見破ることができた。
勇み肌の妙信は、当の安川や村山よりも義憤に燃えて、京二郎に決闘を提議したのも彼であつた。
そのころ村山の両親からは使者がきて、こつちの様子を見定めた上、聟養子になるならなにがし財産も分けてやる。正式の交渉が始まつてゐた。安川の家からは音沙汰がなかつた。安川はもう敗北だと思はざるを得なかつたので、ヤケクソになりかけてをり、村山にしてやられるものなら、京二郎でも同じこと、却つて村山にいゝ気味だと思つたほどで、さほど熱はなかつたが、寝とつた京二郎はやつぱり憎い。思ひつめれば喉を割いてやりたいぐらゐで、ともかく決闘の聯合軍に加はつた。
京二郎は申出に応じ、三人の誘ふまゝ町外れの河原の方へ歩き去つた。
信子と秋子は寝耳に水であつた。彼女らは各々京二郎がたゞ自分とだけ
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