を遂げた。秋子はやゝ抵抗したが、恥のために声を忍んで屈したやうな、無感動なむくろといふ様子であつた。然し次の機会からは、すでに拒まないばかりでなく、快楽に酔ひ痴れ身悶える肉体であつた。
こんなものかと京二郎は思つた。秋子の肉体が憎くなるのであつた。人間はたつたこれだけのものであらうか。まさしく、これだけのものではないか。このほかに目をさまして顔を洗ひ、掃除をし、食事をし、洗濯をし、料理をつくり、知人と挨拶し、もてなし、話をし、それが人間の生きる目的でないとすれば、この肉体のほかに何があるのだらうか。人間はこれだけではない筈だと彼は思つた。然しそれはトキ子を手ごめにするための階段の役目を果してゐる屁理窟のやうなものであつた。
彼はトキ子が抵抗することを考へた。安川や村山に知れて、彼らの刃物に対してゐる自分のことを空想した。そして、そこまで、やつてしまはなければいけないのだと自分を納得させることに成功した。
京二郎はトキ子をゆり起した。
「僕ですよ。起きて坐つて下さい」
トキ子は起きて坐つた。トキ子は彼の空想の中で激しく抵抗してゐるやうな女ではなかつた。空想の中とは別に、京二郎はそ
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