女がもし必要ならば、理想の女をもとめるがよい。つまらぬ女はみんな道ばたへ捨てゝしまつていゝではないか。気兼ねも、気おくれも、後悔もいらない。
 然し、理想は何か。理想の女はいかなる人か。それはまだ京二郎には全く見当がつかなかつた。たゞ彼は現実的に、それを握つて不満なものは、すべて捨てゝ不可なきものと信じることができるだけだつた。
 戦争がすんだ。そして人間が復活した。彼は先づ人間の復活からはじめる、生れたての人間に一人前の理想など在る筈もないではないか。
 戦争未亡人の秋子は若くて、初々しく、美しく、情感にとみ、京二郎の情慾をそゝるに充分だつた。彼は秋子と通じることに罪悪感を覚えるので、一さうそれを敢てして自分を、そして人間を、罪悪をためしてみたいと思つた。自分の意志を行ふことを怖れるのは人間的ではない。強制されて行ふことが気楽だといふバカバカしさに腹が立つた。
 然し彼はいかにも尤もらしく屁理窟でツヂツマを合せてゐたが、実際はたゞ情慾に憑かれた餓鬼であり、可愛いゝ女をもてあそびたい一念だけが生きてゐる自分の心だといふことを知つてもゐた。
 京二郎は深夜に秋子の寝室を襲つて、思ひ
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