でしまつた。
京二郎はまつたく何も知らなかつた。はじめ彼のなすまゝにまかせると、いはれの分らぬトンマなことばかりやり、四肢の配置、そんなことすらも、どこへどうとも知らない様子で異体の知れないことをやるから、信子もだんだん大胆にかうして、あゝしてと教へるうち、ふと忽ちに、それはもう子供でもなく、何も知らないウブな若者でもなく、まつたく傲慢、ふてぶてしい粗暴無礼な男であることが分つてきた。たつた一つ最初の手口をさとつたゞけで、あとはもう全てを知りつくした男であつた。彼女の夫はもつと弱々しく、控え目で、神経がこまかく、やさしかつた。この男は唸り、挑み、つかみ、打ち倒すやうな荒々しい男であつた。男は充分に満足すると、残される女のことなど眼中になく立上つて、それでも、オヤスミとだけ言つて立ち去つた。
翌朝、京二郎は全然ふだんと態度が変つてゐなかつた。それは女を征服した男の態度よりも、もつと傲慢不遜なものに、それはつまり信子が眼中にないといふ様子に見えた。信子は怒りと憎しみに燃え、驚異に打たれ、又、惹きこまれる力に酔つた。思へばそれもこの粗暴な男の影をめぐつてゐる自分の一人相撲にすぎない。まだ
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