話がきまれば自分の勝と考へたから、あとは時間の問題、この際トキ子の身をまもることが大切で、話がきまつた以上、求婚者が娘の家に同居するのは間違ひが起り易いから、解決までフェアプレー、ほかの家へ宿をとらうと巧みに話をもちかけて、二人は星野家の真向ひの長屋へ隣同志に別れて下宿した。二人は四六時中相手の行動を見張りあひ、一方が星野家の門をくゞると、忽ち一方もあとを追ふ、片時も目をはなさぬといふ忙しいことになつた。
変つた事情で、それまでは赤の他人の星野家へひとり残された妙信と京二郎、妙信は色々と情婦があるから、そつちのつきあひで外泊が多く、いつも無口の京二郎がたつた一人とり残されて、話のツギホに困りきつてゐるやうなことが多かつた。
信子(トキ子の母)は未亡人のつれづれ、死にゝとびたつ特攻隊員をねぎらつて、まぎれてゐたが、敗戦、一時はどうなることやらヤブレカブレの気持にもなる。京二郎が酒と女のヤケ暮しの特攻隊で、死にゝ行くその日になつても女を知らなかつた。知らうともしなかつたといふ、そんな子供と遊んでみたいやうな気持になつた。
妙信の帰らない夜、酒をもてなして、京二郎を自分の寝床へつれこん
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