両方のキゲンをとるから、益々こぢれ、もつれるばかりである。
「当然死ぬ筈の人間、それを前提として出来たツナガリに、死ぬ運命が変つて起つたモンチャクだから、昔のツナガリを土台にしては解決ができない。君がトキ子さんと最初の関係をもつたとか、僕がそれからどうしたとか、かういふ特攻隊員のツナガリは御破産にしよう。僕らは新らたに、全く終戦後別個に現れた求婚者として、正式に争ふべきではないか。我々は直談判をやめて、日本の習慣に従つて、両親の許しを受け、親なり仲介者の手によつて、家と家の交渉、正式に手順をつくして求婚して、正式の返答を貰はふぢやないか」
 かう言ひだしたのは村山で、この提案の計画をたてると、彼はいちはやく、両親に依頼の手紙を発した形跡があつた。この提案は母と娘と四人同座の席でだされ、正式の交渉、もとより女たちはそれを望むのが当然、三対一、反対してもムダだから安川も同意した。然し、安川の親の医院は焼失し、両親がどんな暮しをしてゐるやら手紙ぐらゐで納得するやら、二十二の特攻小僧の嫁ばなし、相手にもしてくれない不安ばかりで、たよりない話だけれども、ひくわけに行かない。
 すると村山は、さう
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