へ八月十五日、基地は放心した。
 三人はわけが分らなかつた。
 生きた、といふ知覚。それを誰より強く覚えたのは三人であつたかも知れない。オイ、本当か、たまたま彼らは外出を許され、町の民家のラヂオをきいた。民家のラヂオは偽物の放送ぢやないかと思つたぐらゐ、日本が負けた、生きた、はりつめた気持がゆるんで、だるいやうだつた。
 真偽をたしかめに基地へ戻ると、基地ではラヂオをきいてゐない連中が多く、こつちの方が却つて半信半疑、まだ防空壕を掘つてゐる連中がゐる始末であるから、やつぱりまだ戦争か、ヒヤリと心が一時に冷えてしまつたが、まもなく連絡の飛行機の往復がはげしくなる。夕方、食堂へ行くと、泣く奴、怒る奴、吐きだす奴、笑ふ奴、負けたことがハッキリした。
 隊長の中尉が、
「イノチがもうかつたぞ。お前ら、どうする。これから、どうするんぢや、オレは知らんぞ。日本中がみんな捕虜かいな。わけが分らん。基地へ問ひ合せても返事がないから、明日基地へ帰るんぢや。そのつもりにしとけ」
「勝手に帰るんですか」
「蜂の巣をついたやうなものぢやないか。もう血迷つてるんだ。こんなところに命令まつてたら、永久の島流しぢや
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