ない星空であつた。
自分とは何だらう。もうそれを考へては立つ瀬がない。ギリギリのところに、ガンヂガラメにつるされ、死神を待つだけだから。
★
その一夜、三人ながら熟睡したといふのは一人もなかつた。
然し彼らは翌朝はいくらか気分が落ちついてゐた。仕度をとゝのへ、飛行機を見ると、兵隊なみにひきしまつた心になつた。
尤も彼らはこれから出撃するわけではなくて、いつたん南端の進発基地へ行き、そこでバクダンを吊して、本格的に海を南へ消え去るわけで、その出撃は更に翌日の予定であつた。
ところが南端の基地へ来てみると情勢が変つてゐる、敵の大船団が行動を起してゐるといふのはどうやら偵察のまちがひらしい、もう暫く様子を見ようといふことになつてゐた。
一日生き延る思ひは豊醇きはまるもので、これがあつちの基地であつたらトキ子とひとゝきと思はぬでもないが、さうでなくとも安らかでくつろいでゐられる気持であつた。
その翌日も、又その翌日も翌日も、命令はない。そして先の大船団はどうやら正体のない幻影だつたといふことになり、まア、お前ら遊んでゐろ、さういふことになつたが、するとそこ
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