。向ふぢや死んだつもりにウッチャらかしだらう」
三人そろつて外へでゝ夕風に当ると、
「オイ、オレは今すぐ基地へ帰る」
安川は焦燥にイライラしてゐた。
「勝手に帰つちや、ぐあいの悪いことになるだらうぜ」
「どうせ、負け戦だ。咎《とが》められたら、基地へ問ひ合しても返事がないから、隊長が単独行動を許したと言や、すむだらう。後々のことはもう問題ぢやないんだ。オレは是が非でも帰る」
思ひたつと、つのる焦燥、不安を押へる術《すべ》がなかつた。私イケニヘぢやないわ、あなたを愛してゐた、といふトキ子の言葉が徒らに安川の胎内を駈けめぐつてゐる。その言葉をたしかめなければならない。
イノチがあつた、これからもある、するとまるでガラリと問題が変つてしまふ。まつたく別人の誕生だつた。然し、そんなことに呆れてゐるヒマはない。村山は行動力のある奴だから、情勢の変化と同時に行動を起してゐるに相違ない。
安川はもう二人の返事をきかず、ふりむいて飛行場へ歩きこむ気勢であるから、
「よし、オレも一しよに行く」
妙信が覚悟をきめる。
急に三人ひとかたまりになつて駈けだす、すると安川のみならずあとの二人も無我
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