姉サンの実力にはシャッポをぬいでる趣きがある。
 オカミサンが碁に凝って増淵四段に師事して以来、女中に至るまで碁をうち、ついに「碁の旅館もみぢ」という異様な看板を辻々へ揚げるに至った。碁の旅館といえば人は碁会所の観念を旅館に当てはめる。碁会所というものは、むさぐるしく小さい所である。お金持や、貧乏人でも気のきいた人は碁会所などはひらかない。碁の旅館などと看板をだせば先ず普通に人が考えるのは、小さくて汚い旅館、ほかに自慢の種がないから、亭主が多少碁に腕に覚えのあるのを頼りに窮余の策をめぐらしているのだろうということだ。こんな大邸宅大庭園を擁して碁の旅館とはピント外れのようだが、外れるどころか大当りに当ったのだから、今や日蝕族のピントは日本を征服するに至るだろうと思われるほどである。つまり財界官界などのお歴々や会社官庁などがここのいくつかの広間を碁会に使用するに至って、彼女らの日蝕は終り、かの白光サンたる太陽が再びきらめきはじめたのだ。つまり碁会を縁に普通の宴会席に移行したからである。したがって日蝕族の神様は碁であり、つながる縁で私のようなヘボな横好きでも大そう厚く遇せられるという思いがけ
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