の中の誰であるかということを正しく判断するまでにはほぼ三年の歳月を要したのである。
姉サンだけあって、オカミサンの才能は抜群らしい。デブデブふとった女将タイプとはちがって、小柄の痩せぎすのいかにも女らしい美人であるが、見かけによらぬ敏活なところがあるのである。ゴルフとダンスは達人の域だそうだ。碁は増淵四段に師事し、旅館業をはじめてから習い覚えたのが、五年目に初段格。毎週一回英国婦人が英語を教えにくる。バイヤーの旅館だから英語の心得がいるのである。私が時々仕事部屋に使う離れの附属座敷が教室で、勉強の様子が手にとるように聞えてくる。はじめは一家族、女中に至るまで出席していたが、自発的に脱落して、いまではオカミサンがただ一人の生徒である。彼女の会話の稽古は閃くままに間違った単語を喋りまくるという心臓型であるが、閃かない時には「エエット」と日本語で考え、先生が単語のまちがいを正してやると、「ア、シマッタ」と呟く式の稽古ぶりである。しかし尚もひるむところはなく孤軍フントウ稽古をつづけているところ、見かけとちがってオカミサンは剛気であり、大そう負けギライらしい。マダムも相当の負けギライであるが、
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