ればチエホフにきまっているが、どういたしまして。さッきも申上げた通りの商売大繁昌、ニヒリズムなどと病的なるものは当家のどこにも在りやしない。
 三人姉妹にはそれぞれ旦那様のいらせられるのはムロンであるが、これは主として帳場に頬杖をついて帳づけなどに若干の精をだし、麻雀には見るからに精を入れていらせられるけれども、運転手の公休日や寝た夜などにお客を送り迎えするのは旦那様方で、そのチームワークは至れりつくせりである。
 さて、三人姉妹の呼び方がむずかしいや。日蝕族に何か天啓があって、これだ、と思ったのかも知れんが、一番姉さん、つまりこの旅館で最も敏腕を揮う中心人物を「オカミサン」というのである。二番目の元三田の小町娘は姉さんよりも身長が高く、テニスがうまい。そのほかはゴルフをやっても碁をやっても英語をやっても万端姉サンに歯が立たない。これを「マダム」というのである。三番目のおとなしい妹を「奥サン」というのです。もう一ッぺん順序通りに並べて書きますから、まちがえないように覚えていただきます。一、オカミサン。二、マダム。三、奥サン。私は女中たちが彼女らの女主人の一人について語るとき、それが三人
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