うが、不遜とも何とも言いようがなく、すでに自分が名人にきまったかの如く塚田をなめてかかり、それが言行の端々に露骨に現れ、正視しがたい生意気、無礼な態度であったということである。塚田がよく奮起してこの思いあがった小僧をひねりつぶしたのは大手柄であった。
大山の無礼不遜な態度は観戦した人々によって厳しく批判された。敗れた彼に同情した者は――ヒイキは別にして、公平な将棋ファンには殆どなかったようである。彼の敗北を惜しんだ者もいなかった。思いあがった小僧が名人にならなくて良かったというのが万人の胸のうちであったのである。
負けた上に、これぐらい世間のきびしい批判をあびれば、誰しもクサルのが当り前だ。ましてや初陣そうそうのことである。ところがこの若者は古狸でも三四年は寝込むようなきびしい悪評の中で、冷静に、動揺することなく、またしても順位戦に好成績をあげ、わずかに木村との最後の挑戦者決定戦に敗れたが、A級順位戦では彼が第一等であったように記憶する。
次の年もA級優勝、挑戦者となり、はじめ二敗、つづく二局を二勝して二対二にもちこみ、第五局目モミヂの対局に於て、
「ぼくの勝ちですよ」
言々句
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